読み書き

読んだものについての覚書

『坊っちゃん』(インクナブラPD)夏目漱石

文体は軽快。

気になるのはどうしてこんな人物を主人公に仕立てたかということ。直情径行を画に描いたような人物。まさしく画に描いたような。坊っちゃん、一人称で物語の主人公になっているが、あまり深刻に考えないで、只管馬鹿正直を貫く。周囲のアクションに対して受けにまわったリアクションと言うよりは飽くまで攻めのアクションで抗するその動機を構成する内面は、一応あるようで、そのじつ内面そのものを自分自身で意識しないので、むしろ妙に内面が欠落しているように見えてしまう。こんな人物が一人称の主人公に仕立てられるのは珍しいのじゃないか。自己批評的な屈託が内面であるかのような錯覚に陥らず、内面が行動に直結しているからだろうか。その割に文章自体は恣意的な感情や感覚の表現に徒に流されないで綴られるので、視点そのものが図らず周囲への批評になってしまう。(だからこそこういう独り語りをする人物が現実にいるようには思われない。)

言葉そのものよりも、言葉のむこうに透けて見えるかも知れないものに焦点を当てている感じ。またそれと同時に、漱石の文章はどの作品でもそのようだが、方言を如何にも活用して、文字に起こした言葉の響き連なりそのものを愉しんでいる風。